こんにちは、弁護士の奥田です。
今日は令和元年7月1日から始まる新しい遺留分制度について、もう一つのお話をしたいと思います。
”相続人に対する贈与”についてどう考えるか、ということが変わりましたのでそのお話です。
こういう事例です。
お父さんと長男・長女がいて、お父様が亡くなりました。亡くなった時にお父さんの財産としては建物と土地がありました。それぞれ評価が4000万円です、といったような場合です。
亡くなる随分前に、お父さんは 株(4000万円)を、ご長男に贈与していました、というようなケースで、亡くなった時お父さんの遺言があって、「財産についてはすべて長男に相続させる」という遺言がありました、というケースで考えます。
この場合、ご長女には『遺留分』というのがありまして、長女の遺留分は1/4ということになります。遺留分率は1/4ということになります。
この場合、新しい制度では、長女は長男に対して『遺留分侵害額請求』をやることによって金銭債権を取得する、ということになったと前回お話をしましたけれども、今回は、この株をかつてお父さんが長男に贈与していたといったようなケースの時に、ここをどう考えるか、ということについて新しい制度ができましたので、そのご説明をしたいと思います。
この場合基本的に、ご長女が長男に遺留分侵害額請求をやることによって得られる金銭債権はどういう計算をするかというと、まず土地と建物(4000万円+4000万円)、それから、かつての贈与(株)も含みますとプラス4000万円。
そうすると、4000万円+4000万円+4000万円で、全部で1億2000万円。これの1/4ということになりますから、3000万円。これを長女は長男に対して請求できる、ということになるわけです。
基本的なこのような計算については特に変わってはいませんけれども、この”株の4000万円”というものを、一体どのくらい前の贈与まで考えるのか、ここ(計算)に入れるのか、ということで、
これまでは、”この株の4000万円/お父さんが長男に株をやった”というのが、たとえ20年前でも30年前でも、全部ここ(計算)に入れるんだ、ということで計算をすることになっていたわけですけれども、
新しい制度では、この長男に対する生前贈与は10年前より新しいものについてだけここに入れますよ、ということになるわけです。
そうすると今回のケースでも、お父さんが長男に贈与していたのが例えば20年前だといったような場合は、この部分は入らないということになります。
そうすると4000万円+4000万円=8000万円の1/4の2000万円だけ請求できる、といったようなことになるわけです。
こういった新しい制度ができることによって何が違うかというと、事業承継などの戦略が立てやすくなった、ということになるわけです。
お父さんが長男に自社株を全部贈与しました、といった場合であっても、お父さんは頑張って10年以上生きれば、ここの株の贈与の部分についてはもう遺留分の計算の時に関係なくなりますよと、こういうことが出来るわけですので、早期にその事業承継を考えて、早期に自社株を譲り渡すといったようなことで、 亡くなった後の遺留分に関する争いをあまり深刻化させずに済ませる、というようなことが可能になったということになります。
今日は、相続人に対する贈与をどのくらい前のものまで含めて遺留分を計算するのか、ということについて、「10年前以前のものについては考えない」という新しい制度になりましたので、そのお話をさせていただきました。
以上です 。
最終更新日:2019年6月26日
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著者プロフィール
弁護士 奥田 貫介
おくだ総合法律事務所 所長
司法修習50期 福岡県弁護士会所属
福岡県立修猷館高校卒
京都大学法学部卒
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