生前贈与・死因贈与・遺贈
私が住んでいる家を長男にそろそろ譲ろうかと思っています。不動産を譲る方法には生前贈与・死因贈与・遺贈といろいろあるらしく、どれがいいのかわかりません。どの方法がよいのでしょうか?
生前贈与・死因贈与・遺贈は、いずれも無償で財産を譲る方法で、相手方は相続人となる方に限られません。以下でお示しするように、それぞれ特徴があり、権利の移転を急ぐ場合、税金を低く抑えたい場合など、ご希望に応じて最適な方法も変わってきます。また、実際の登記などを確実に行う方法なども考慮しておく必要があります。
1 制度の特徴
(1)生前贈与
生前贈与とは、自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって成立する契約です。
生前贈与の成立には、書面を必要としません。書面の有無にかかわらず、引渡しや登記など履行をした部分は撤回できません。
相手方に権利が移転するのは、原則として契約が成立した時ですが、「○○したら」など効力を生ずる条件を付けることもできます。
(2)死因贈与
死因贈与とは、贈与をする人(贈与者)の死亡によって効力を生ずる贈与です。相手方の受諾によって成立すること、契約の成立に書面を必要としないことは、生前贈与と同じです。撤回は、原則として自由にでき、書面による必要もありません。
不動産を死因贈与する場合、仮登記をしておくことによって、贈与者が死亡した後に本登記をすることができます。仮登記をしない場合は、登記などを確実に実行するため、弁護士など信頼できる人を「執行者」として書面で指定しておくことが望ましいといえます。
(3)遺贈
遺贈とは、遺言という一方的な意思表示によって、財産を他人に無償で与えることをいいます。遺贈には、特定の財産を対象とする「特定遺贈」のほか、遺産の包括的な割合を対象とする「包括遺贈」もあります。
遺言は一方的な意思表示ですから、相手方の受諾は必要ありません。しかし、遺言は書面で、民法という法律で定められた方式で行う必要があります。また、遺贈の撤回は、遺言の方式により、自由にできます。
遺贈は遺言者が亡くなった後に効力を生じますから、引渡しや登記などを確実に実行するため、弁護士など信頼できる人を「遺言執行者」として遺言で指定しておくことが望ましいといえます。
2 住宅を贈与する場合の税金
(1)不動産取得税
不動産取得税は、不動産の取得について課税する都道府県税です。
生前贈与・死因贈与・遺贈のいずれについても課税されるのが原則です。ただし、遺贈のうち相続人に対するものは、「相続」に含まれるので、課税されません(地方税法73条の7第1号、73条の15)。
税率は、原則として4.0%ですが、平成18年4月1日から平成27年3月31日までの間に住宅・土地の取得が行われた場合は3.0%です(地方税法附則11条の2第1項)。
なお、取得した人が自己の居住の用に供する場合などの軽減措置があります。
福岡県「不動産取得税」
(2)贈与税・相続税
「贈与税」は、個人から財産をもらったときに課される国税です。
「相続税」は、相続人が相続により受け継がれた財産などに課される国税です。
贈与を受ける人の選択により、贈与税と相続税を一体的に課税する制度が「相続時精算課税」です。これは、贈与時に贈与財産に対する贈与税を納め、その贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額を基に計算した相続税額から、既に納めた贈与税相当額を控除することにより相続税額を決定するものです。
「相続時精算課税」を選択した場合、贈与時と相続時までに財産価額が変わらなければ、税額は同じになります。
(3)登録免許税
「登録免許税」は、不動産などについての登記等について課税する国税です。
税率は、原則として2.0%です。ただし、相続人に対する遺贈については、「相続」に含まれるので、0.4%となります(登録免許税法17条、別表第1・1(2)イ)。
なお、平成28年3月31日まで特定認定長期優良住宅などについての軽減措置があります。
税務署「登録免許税の税率の軽減措置に関するお知らせ」
https://www.nta.go.jp/shiraberu/ippanjoho/pamph/sonota/toroku-menkyo.pdf
方式 | 撤回 | 権利移転 | 税金 | |
生前贈与 | 書面不要 | 履行が終わった部分は不可 | 贈与者の生前 |
不動産取得税3.0% 贈与税(相続時精算課税の適用あり) 登録免許税2.0% |
死因贈与 | 書面不要 | 原則として撤回できる | 贈与者の死亡生前でも仮登記は可能 |
不動産取得税3.0% 相続税 登録免許税2.0% |
遺贈 | 遺言必要 | 遺言により自由に撤回できる | 贈与者の死亡 |
不動産取得税3.0%(相続人に対する場合なし)
相続税 登録免許税2.0%(相続人に対する場合0.4%) |
3 生前贈与・死因贈与・遺贈のご相談
相続人に対して住宅を贈与する場合、権利の移転を急ぎたいなら生前贈与、税金を低く抑えたいなら遺贈が優れているといえます。しかし、遺贈の場合には、引渡しや登記などを確実に実行するため、弁護士など信頼できる人を「遺言執行者」として指定おく方がよいといえます。
生前贈与・死因贈与・特定遺贈は、いずれも特別受益の持戻し・遺留分減殺請求の対象となり得ますから、こうした影響を考慮しておく必要もあります。
当事務所は、税理士や司法書士とも連携して、みなさまのご希望に沿うよう、最適な方法をご提案し、実現して参りますので、お気軽にご相談ください。
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