Q.個人で経営してきた工場を、2人いる子のうち、工場を手伝ってきた長男に譲りたいと思います。工場関連の財産が、私の有する財産の大部分を占めるようです。このような場合、工場経営を長男にスムーズに受け継がせるためには、どのようなことに留意すればよいでしょうか。
A.現経営者から後継者へ事業を引き継ぐことを「事業承継」といいます。「個人事業」を現経営者の親族に引き継ぐ場合、株式の引継ぎは、個人の相続としての対策が中心となります。
個人の相続として「事業承継」をする場合、後継者以外の相続人の「遺留分」を侵害しないように配慮するなどの法律に則った対策が必要です。
後継者以外の相続人が納得するのであれば、「遺留分」を放棄してもらい、財産をすべて後継者に受け継がせることも可能となります。
なお、遺留分は、家庭裁判所の許可を受けた場合には、相続開始前に放棄することができます。
「事業承継」を円滑に進め、後で紛争にならないような適切な方法をとるには、「遺留分」などの法的な仕組みだけでなく、相続人となる方に納得していただくことが重要となりますから、お気軽に弁護士にご相談ください。
1 「個人事業」の「事業承継」
現経営者から後継者へ事業を引き継ぐことを「事業承継」といいます。
後継者という「ヒト」の引継ぎだけでなく、事業用資産・資金といった「資産」、経営理念・技術・得意先関係などの「知的資産」も含めて引き継ぐことが重要です。
事業のなかでも、個人として行う事業が「個人事業」です。「個人事業」の場合、現経営者の親族に引き継ぐ場合(親族内承継)が多いと考えられます。
「個人事業」を現経営者の親族に引き継ぐ場合、事業用資産・資金といった「資産」の引継ぎは、個人の相続としての対策が中心となります。例えば、「資産」の引継ぎを生前に行うには「贈与」、死後に行うには「遺言」によることになります。
2 「個人事業」を親族に引き継ぐ場合と「遺留分」
「個人事業」を現経営者の親族に引き継ぐ場合、後継者に多くの財産を引き継がせることになり、後継者でない相続人には十分に財産を残せないことがあります。
相続人に財産が十分に残されないとすると生活が脅かされるおそれがあるので、相続人には「遺留分」という相続財産の取り分が認められています。「遺留分」を侵害された相続人は、財産を多く引き継いだ後継者に対して、侵害された「遺留分」を返還するよう求めることができます。
そこで、「個人事業」を現経営者の親族に引き継ぐ場合には、「遺留分」についての問題が生じないような対策をする必要があります。
(1)生前に事業の引継ぎを行う場合
経営者の生前に事業の引継ぎを行う場合、「贈与」によることが考えられます。
経営者が亡くなる前1年間に行った「贈与」は、「遺留分」を算定するための基礎となります。
このため、後継者に引き継ぐ事業用資産が後継者以外の相続人の「遺留分」を侵害しないよう、後継者以外の相続人にも財産を「贈与」するなど納得してもらうことが重要です。
(2)死後に事業の引継ぎを行う場合
経営者の死後に事業の引継ぎを行う場合、「遺言」によることが考えられます。
「遺言」を用いる場合も、後継者以外の相続人の「遺留分」を侵害しないよう配慮しておくことが大切です。
例えば、後継者以外の相続人に対しては、事業用財産以外の財産を、「遺言」で相続させるようにしたり、生前に「贈与」したりすることが考えられます。生前に「贈与」を行った場合には、目録等を作成しておくなど「遺留分」の算定に争いが起こらないようすることが考えられます。
また、「遺言」については、自筆による方法よりも、死後の手続きに時間がかからず、トラブルも生じにくい「公正証書」による方法をおすすめします。
※「遺留分」の詳細ページはこちら
3 「個人事業」の事業承継のご相談
「個人事業」の場合でも、従業員等に引き継ぐ場合や第三者に引き継ぐ場合が考えられますが、現経営者の親族が後継者となる場合が多いと考えられます。
このような場合、現経営者と相続人、相続人同士の人間関係をうまく調整し、相続人となる方に納得していただくことが重要となります。
「贈与」・「遺言」のいずれの場合も、後継者以外の相続人の「遺留分」を侵害しないよう配慮するなどの法律に則った対策が必要です。
「事業承継」を円滑に進め、後で紛争にならないような適切な方法をとるには、「遺留分」などの法的な仕組みだけでなく、相続人となる方に納得していただくことが重要となりますから、お気軽に当事務所にご相談ください。